コロナの第一波が一端の落ち着きをみせ、飲食店をはじめとする休業していた店舗も再開に動いています。
スポーツジムも再開され、筋トレを再始動しはじめたトレーニーも多いのではないでしょうか。
私も当然その1人であり、コロナ渦の時は自宅用に可変ダンベルを購入しようにも売っておらず
ヤフオクやメルカリで高額出品されていた可変ダンベル40キロ2個セットを眺めては悔しい思いをして過ごしておりました。
転売ヤーは許しません!絶対に!この筋肉の恨み!
というわけで、約2か月くらい筋トレがほぼできていない状況であったわけです。
そして、筋トレを再開し私を待ち受けていたのは当然ながらの結果でした。
ビッグ3種目のすべてで約20%の最大重量減(1REPにて)!
持久力も低下し、5キロのランニングが精一杯!
体中に張り付く脂肪!
私自身、予想はしておりましたが実際に現実として突き付けられるとショックを隠せません…
おそらく、私と同じようなトレーニーもいるのではと思い、今回の内容を執筆します。
マッスルメモリーとは何??
マッスルメモリーとは以下の2種類の意味があります。
①筋肥大のメモリー。
運動の休止によって落ちた筋力は、再刺激の際に以前と同程度まで短期間で肥大しやすく遺伝子レベルで記憶されているという概念。
②運動能力のメモリー。
運動学習と同義。時間の経過とともに動きが繰り返されると、長期的な筋記憶が作成され、最終的には意識的な努力をほとんどまたはまったく行わずに実行できるようになるという概念。(例:自転車や武道など)
今回、紹介しますのは①の意味でのマッスルメモリーです。
このマッスルメモリーは最大10年くらい残っているとも言われており、マッスルメモリーが残っている為に2~3か月程度で筋力がもとのレベルまで戻ると言われています。
元カリフォルニア州知事で、ボディービルダーとしても俳優としても日本でもおなじみのアーノルド・シュワルツェネッガー氏も年齢には勝てず、2014年左図(当時64歳)には若いころの体を見る影もなく失っておりました。しかし、その直後に同氏はマスコミにトレーニングを再開したことを発表しており、5年後の2019年(当時69歳)には右図の全盛期を彷彿とさせるような素晴らしい肉体を取り戻しております。もちろん、セレブである同氏は専門のトレーナーや最新鋭の機器を活用したことが考えられます。しかし、69歳でここまでの体を作るのは並大抵の努力ではないことは想像するに難くないです。一部のマスコミではマッスルメモリーの存在とともに、その事実を報じました。
また、ボディビルダーの田代誠(ゴールドジム事業部長 取締役)も同社のインタビュー記事を公開しており、インタビューを通じて「2~3カ月休んでも筋肉は必ず戻ります」との折を話しています。末尾参考文献にインタビュー記事のURLを添付します。興味がある方は是非読んでみてください。
では、マッスルメモリーは本当に実在するのでしょうか。ここからはマッスルメモリーに関する文献を紹介していきたいと思います。
①マッスルメモリーは実在するのか!?
文献名:Strength and muscle adaptations in heavy-resistance-trained women after detraining and retraining
(筋トレを受け、その後に休止を経て筋トレ再開した女性の筋力について)
これは1991年にオハイオ大学のStaronらによって発表された研究内容です。
研究対象
トレーニング経験のある6名の女子大生およびトレーニング経験のない7名の女子大生
研究プロトコル
①トレーニング経験のある6名の女子大生に20週間の筋トレ期間を実施。その後、30~32週間の運動なし期間を設けた後に再び筋トレを6週間行った。
②トレーニング経験のない7名の女子大生はコントロールとして同じメニューの筋トレを6週間行った。
➂さらに両群から4人を選択してさらに7週の筋トレを行った。
各グループの評価項目は最大動的筋力、筋肉横断面積(3種の筋繊維タイプ)、タイプIIb繊維のパーセンテージとなっている。
筋トレの内容はスクワット、レッグプレス、レッグエクステンション、トレーニング後は10-15分間のストレッチ。
結果
20週の筋トレ期間は最大動的筋力や3種の筋繊維タイプ全ての筋肉が増加しました。筋繊維割合として速筋であるIIb繊維割合は減少しました。
30~32週の運動なし期間では筋肉横断面積はあまり変化しませんでしたが、最大動的筋力が低下しました。20週間の筋トレ実施前よりかは低下していない。
筋トレ再開によって全ての筋繊維タイプの筋肉横断面積が顕著に増加しました。筋繊維割合として速筋であるIIb繊維割合は減少しました。
延長した7週間の筋トレ期間中もこれら傾向は伸び続けた。
要約すると筋トレ経験のある人では約8か月程度の筋トレ休止期間があっても、約1.5ヵ月程度で筋トレ休止前の状態に戻ることができるということが言えます。
②マッスルメモリーは実在するのか!?
文献名:Dynamic muscle strength alterations to detraining and retraining in elderly men
(高齢男性を訓練し、休止期間を経て再訓練する一連における動的筋力の変化)
オーストラリアのチャールズスタート大学出身で退役軍人医療センターにて老年研究を行っているD. R. Taaffeらによって1997年に発表された研究内容です。
研究対象
高齢の男性(65-77歳)11名
研究目的
高齢者の筋力に対する休止期間とその後の再開の影響を調査する
研究プロトコル
①高齢男性(65-77歳)11名を対象にランダム化比較試験によって人組み換え成長ホルモンを与えた群(6名)となしの群(5名)に分ける。
②各群に筋トレを24週間実施し、12週間の休止期間をはさみ、再トレーニングを8週間行った。
なお、筋トレ内容は最大負荷の75%を8rep×3setで3回/週実施するものとし、休止期間と再トレーニング期間には成長ホルモンは投与しなかった。
評価は筋繊維断面積および動的筋力(44週間の2週間ごとに1-RM法)。
結果
筋力群に応じて、26·0±5·0から83·9±15·6%の範囲で、40·4±5·5%(平均±SEM)によって増加しました。
強度の増加は、I型(17·4±4·1%)の肥大(P<0·05)を伴ったおよびII(25·8±12·4%)筋線維。初期強度の向上のうち、29・9±5・2%だけが訓練不足で失われました。
つまり、初期トレーニングでは約40%の筋力上昇と20%程度の筋肥大効果が確認。トレーニング休止によって筋力が約30%ほど失われた。
しかし、この研究ではその後、トレーニング再開したことで筋肉横断面積および筋力はトレーニング前の数値に戻っております。
また、当研究にて休止期間によって失った最大の強さを取り戻すために再び筋トレを実施した場合、短い期間で十分であることを示しています。
要約すると、高齢者でもマッスルメモリーは有効であり、失った筋力も短期間で取り戻せるということが分かりました。
まとめ
いかがだったでしょうか。
若者から高齢者まで問わず効果を見ることができるマッスルメモリー。
今回紹介しました論文より以下の事実が分かりました。
・マッスルメモリーは年齢問わず有効である。
・若年層では最大8ヵ月、高齢者でも3か月程度の休止期間ならマッスルメモリーで筋力が戻る。
・筋力が戻るまでは約1.5~2か月を要する。
これは神経細胞のシナプス形成が影響しているといわれております。
例えば、背中の筋トレを行った際に、始めたばかりのころには力の入り具合を意識しにくいが筋力がついてくるに従い、意識しやすくなってくるという傾向があります。
また、トレーニーの中には筋トレ初期で未肥大の筋肉を意識するためのトレーニングを「神経を通す」と言います。
あながち、トレーニーは脳筋ではなく理系脳なのかもしれませんね。
頑張ってコロナ前の筋力を早期に取り戻し、さらなる向上を目指しましょう!!
参考文献
田代誠インタビューURL:(https://www.goldsgym.jp/news/7253)
①https://www.researchgate.net/publication/21329089_Strength_and_muscle_adaptations_in_heavy-resistance-trained_women_after_detraining_and_retraining
②https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1365-2281.1997.tb00010.x