➀閉経後女性は骨折しやすい?
閉経は、一般的に50歳前後の女性が迎えるイベントです。
女性のからだが性成熟期のおわりに達し、更年期になり卵巣の活動性が次第に消失し、月経が永久に停止した状態を「閉経」といいます。
閉経には毎月の生理がなくなるという点や乳がんリスクが低下するというメリットがあります。
一方で閉経前後に悩まされる人の多い更年期障害や、閉経後からリスクが増える病気もあります。
そんな閉経を境にリスクが上がる病気の1つに骨粗しょう症が挙げられます。
閉経によってエストロゲンという女性ホルモンの分泌が減ると、骨が形成されにくくなり、骨密度が低くなる人が増えます。特に閉経が早かった人ほど注意が必要となります。
高齢女性に骨折が生じやすくなるのはこれら背景があります。
また、最近は健康ブームより女性のジム通いも一般的になりました。
今回はそんな「筋トレ」×「閉経後女性」×「骨密度」をテーマに海外の文献を紹介したいと思います。
過去に女性に向けた記事も書いておりますので、ぜひ合わせてご覧ください。
➁中年女性は有酸素よりも筋トレをしたほうが良い?
文献名:Resistance Training over 2 Years Increases Bone Mass in Calcium‐Replete Postmenopausal Women
(2年間にわたる抵抗トレーニングは、カルシウム-閉経後の女性の骨量を増加させる)
この研究はオーストラリア西部にあるカーティン工科大学のデボン・カー氏らによって2009年に発表され、Journal of Bone and Mineral Researchに掲載されたものとなっております。また、本研究は米国骨鉱物研究会第2回合同会議で発表されたものとなっており、内容がWEB上で読めるため、興味のある方は本ページ末尾にある参考よりURLからどうぞ。
目的
閉経後の骨粗しょう症における運動習慣の予防効果検証
対象
・閉経後の女性126人(平均年齢、60±5歳)
※普段の中程度以上の運動習慣がなく、5年以内に筋トレ実施歴がない方
プロトコルと評価
・被験者を以下の3グループにランダム化する。
・有酸素運動メインのフィットネスグループ(F)
・非運動制御群(C)
・すべての被験者は、1日あたり600mgのカルシウムを補充した。
・各骨密度データの収集はベースライン完了後6ヶ月ごとに測定した
結果
各グループにおいて被験者のベースラインに大きな差はなかった(C群の年齢は他2群より有意に高齢であったことやグループ間の閉経以降の経過年数に違いがあったが、各骨密度数値に差はなく、これらは重要ではありませんでした。)
2年間の試験継続率は71%(S群では59%、Fグループでは69%、C群では83%)であったが、運動コンプライアンスは運動群間で差はなかった。(Sグループ、74±13%:Fグループ、77±14%)。
以下に図として測定した各骨密度データを示す。
調査の2年間のベースラインからの変化率をそれぞれ示している。(▴:S群、▪:F群、•:C群)
(A) 股関節転子部位は、S群がF群およびC群と比べて有意的に骨密度が高い傾向であった(p< 0.01)。
(B) 総股関節部位は、S群がF群およびC群と比べて有意に骨密度が高い傾向であった(p<0.05)。
(C) 腰椎と(D)全身においては群間差はなし。
この研究結果では、高齢女性で特に骨折多発部位である股関節転子部位で2年以上閉経後の女性における筋力トレーニングの有意的な効果を示しています。一方で、カルシウム補充だけの場合や、有酸素フィットネスの実施では骨密度の改善に効果がみられませんでした。
また、S群の骨密度の最大変化は、試験実施の最初の年に生じております。2年目の変化率は相対的に低下したが、骨密度は2年後にS、F、C群の間に3%以上の差が残った結果となりました。そのため、特に運動習慣のない中後年女性ほど筋トレを実施したほうが高い効果を得やすいと考えられます。
➂筋トレだけやればいいわけじゃない?
文献名:The effects of differing resistance training modes on the preservation of bone mineral density in postmenopausal women: a meta-analysis
(閉経後女性における骨ミネラル密度の保存に対する異なる抵抗トレーニングの効果:メタ分析)
この研究は中国浙江師範大学の趙氏らによって発表され2015年1月にOsteoporosis International volume 26, pages1605–1618にて掲載されているものです。
目的
本研究は、閉経後女性における大腿骨頸部および腰椎の各骨密度の維持に対する標準生活および筋トレ併用トレーニングプロトコルの影響を調べることを目的として行われた。
結果
本研究の対象となった分析文献数は24の研究であった。各研究において股関節に効果が顕著にみられていた。また、全体の分析においては、筋トレが大腿骨頸部骨密度(SMD = 0.303、95%信頼区間(95%CI)=0.127-0.479、p = 0.001)および腰椎骨密度(SMD = 0.311、95%CI = 0.115-0.507、p=0.002)を有意に増加させたことを示唆した。しかし、サブグループ分析は、介入実施された筋トレプログラムが股関節骨密度(SMD = 0.411、および 95 % CI = 0.176-0.645、p = 0.001) および脊椎骨密度(SMD = 0.431, 95% CI = 0.159-0.702, p = 0.002)であった。なお、筋トレのみ実施した場合、大腿骨頸部と腰椎の骨密度の両方にプラスではあったものの有意差みられなかった。
④まとめ
いかがだったでしょうか。
中高年の女性は筋トレの実施(特に下半身メイン)が骨密度の維持には有効であることが示されておりました。一方で、ただ筋トレを行うだけでなく、カルシウムの摂取という栄養療法と合わせることで効果が最大化できるということが言えます。
また、②で紹介しました文献ではカルシウムを1日600㎎摂取していますがこれは日本人でも同様なのでしょうか。日本人の食事摂取基準(2015年版)では、国民栄養調査の摂取量、腸管からの吸収率、骨代謝(骨吸収と骨形成のバランス)、尿中排泄を考慮し、1日の推奨量を18歳以上の女性で650㎎としています。そのため、この摂取量は日本人にも十分適応される内容であると考えられます。
しかしながら、2年という期間の試験持続率は筋トレ(S)グループが最も低かったという傾向もありました。
やはり、筋トレを習慣化するというのは多くの方にとって難しいのでしょう。
では、どうしたらジム通いを継続できるのか。過去に習慣化について記事を書いておりますので、興味のある方は合わせてご覧ください。
・脚部の筋トレ習慣(週3日以上)とカルシウム補充併用は骨折多発部位である股関節転子部などにおいて骨密度の維持に寄与する。
参照元
・Resistance Training over 2 Years Increases Bone Mass in Calcium‐Replete Postmenopausal Women
https://asbmr.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1359/jbmr.2001.16.1.175
・The effects of differing resistance training modes on the preservation of bone mineral density in postmenopausal women: a meta-analysis
https://link.springer.com/article/10.1007/s00198-015-3034-0
・健康長寿ネット:カルシウム
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/mineral-ca.html